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芥川龙之介

句子大全 2014-08-31 02:22:24
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河童……芥川龙之介 どう か Kappa と発音してく ださい。 序 これはある精神病院の患者、 ――第二十三号がだれにでもしゃべる话である。 彼はもう三十を越しているであろう 。 が、 一见したところはいかにも若々しい狂人である。 彼の半生の経験は、 ――いや、 そんなことはどう でもよい。 彼はただじっと両膝(り ょ う ひざ)をかかえ、 时々窓の外へ目 をやり ながら、 (鉄格子(てつごう し) をはめた窓の外には枯れ叶さえ见えない樫(かし) の木が一本、 雪昙り の空に枝を张っていた。) 院长のS 博士や仆を相手に长々とこの话をしゃべり つづけた。もっとも身ぶり はしなかったわけではない。 彼はたとえば「惊いた」 と言う 时には急に颜をのけぞらせたり した。 …… 仆はこう いう 彼の话をかなり 正确に写したつもり である。もしまただれか仆の笔记に饱き足り ない人があるとすれば、 东京市外× × 村のS 精神病院を寻ねてみるがよい。 年よりも若い第二十三号はまず丁宁(ていねい) に头を下げ、 蒲団(ふとん) のない椅子(いす)を指さすであろう 。 それから忧郁(ゆう う つ) な微笑を浮かべ、 静かにこの话を缲り 返すであろう 。 最后に、 ――仆はこの话を终わった时の彼の颜色を覚えている。 彼は最后に身を起こすが早いか、 たちまち拳骨(げんこつ) をふり まわしながら、 だれにでもこう 怒鸣(どな) り つけるであろう 。 ―― 「出て行け! この悪党めが! 贵様も莫迦 (ばか) な、嫉妬(しっと) 深い、 猥亵(わいせつ) な、 ずう ずう しい、 う ぬぼれきった、 残酷な、 虫のいい动物なんだろう 。 出ていけ! この悪党めが! 」 一 三年前(まえ) の夏のことです。 仆は人并みにリ ュック?? サックを背负い、 あの上高地(かみこう ち) の温泉宿(やど) から穂高山(ほたかやま) へ登ろう としました。 穂高山へ登るのには御承知のとおり 梓川(あずさがわ) をさかのぼるほかはあり ません。 仆は前に穂高山はもちろん、 枪(やり ) ヶ岳(たけ) にも登っていましたから、 朝雾の下(お)り た梓川の谷を案内者もつれずに登ってゆきました。朝雾の下り た梓川の谷を――しかしその雾はいつまでたっても晴れる景色(けしき) は见えません。 のみならずかえって深くなるのです。 仆は一时间ばかり 歩いた后(のち)、 一度は上高地の温泉宿へ引き返すことにしよう かと思いました。 けれども上高地へ引き返すにしても、 とにかく 雾の晴れるのを待った上にしなければなり ません。といって雾は一刻ごとにずんずん深く なるばかり なのです。「ええ、 いっそ登ってしまえ。」 ――仆はこう 考えましたから、 梓川の谷を离れないよう に熊笹(く まざさ) の中を分けてゆきました。 しかし仆の目をさえぎるものはやはり 深い雾ばかり です。もっとも时々雾の中から太い毛生欅(ぶな) や枞(もみ) の枝が青あおと叶を垂(た) らしたのも见えなかったわけではあり ません。 それからまた放牧の马や牛も突然仆の前へ颜を出しました。 けれどもそれらは见えたと思う と、 たちまち蒙々(もう もう ) とした雾の中に隠れてしまう のです。 そのう ちに足もく たびれてく れば、 腹もだんだん减り はじめる、 ――おまけに雾にぬれ透 (とお) った登山服や毛布なども并みたいていの重さではあり ません。 仆はとう とう 我(が)を折り ましたから、 岩にせかれている水の音をたより に梓川の谷へ下(お) り ることにしました。 仆は水ぎわの岩に腰かけ、 とり あえず食事にとり かかり ました。 コオンド?? ビイフの罐(かん) を切ったり 、 枯れ枝を集めて火をつけたり 、 ――そんなことをしているう ちにか れこれ十分はたったでしょ う 。 その间(あいだ) にどこまでも意地の悪い雾はいつかほのぼのと晴れかかり ました。 仆はパンをかじり ながら、 ちょ っと腕时计(どけい) をのぞいてみました。 时刻はもう 一时二十分过ぎです。 が、 それより も惊いたのは何か気味の悪い颜が一つ、 円(まる) い腕时计の硝子(ガラス) の上へちらり と影を落としたことです。仆は惊いてふり 返り ました。 すると、 ――仆が河童(かっぱ) という ものを见たのは実にこの时がはじめてだったのです。 仆の后ろにある岩の上には画(え) にあるとおり の河童が一匹、 片手は白桦(しらかば) の干を抱(かか) え、 片手は目 の上にかざしたなり 、 珍しそうに仆を见おろしていました。 仆は呆(あ) っ気(け) にとられたまま、 しばらく は身动きもしずにいました。 河童もやはり 惊いたとみえ、 目の上の手さえ动かしません。 そのう ちに仆は飞び立つが早いか、岩の上の河童へおどり かかり ました。 同时にまた河童も逃げ出しました。 いや、 おそらくは逃げ出したのでしょ う 。 実はひらり と身をかわしたと思う と、 たちまちどこかへ消えてしまったのです。 仆はいよいよ惊きながら、 熊笹(く まざさ) の中を见まわしました。 すると河童は逃げ腰をしたなり 、 二三メ エトル隔たった向こう に仆を振り 返って见ているのです。 それは不思议でもなんでもあり ません。 しかし仆に意外だったのは河童の体(からだ) の色のことです。 岩の上に仆を见ていた河童は一面に灰色を帯びていました。 けれども今は体中すっかり 绿いろに変わっているのです。 仆は「畜生! 」 とおお声をあげ、 もう一度河童(かっぱ) へ飞びかかり ました。 河童が逃げ出したのはもちろんです。 それから仆は三十分ばかり 、 熊笹(く まざさ) を突きぬけ、 岩を飞び越え、 遮二无二(しゃにむに)河童を追いつづけました。 河童もまた足の早いことは决して猿(さる) などに劣り ません。 仆は梦中になって追いかける间(あいだ) に何度もその姿を见失おう としました。 のみならず足をすべらして転(ころ) がったこともたびたびです。 が、 大きい橡(とち) の木が一本、 太ぶとと枝を张った下へ来ると、 幸いにも放牧の牛が一匹、 河童の往(ゆ) く 先へ立ちふさがり ました。しかもそれは角(つの) の太い、 目 を血走らせた牡牛(おう し) なのです。 河童はこの牡牛を见ると、 何か悲鸣をあげながら、 ひときわ高い熊笹の中へもんどり を打つよう に飞び込みました。 仆は、 ――仆も「しめた」 と思いましたから、 いきなり そのあとへ追いすがり ました。 するとそこには仆の知らない穴でもあいていたのでしょ う 。 仆は滑(なめ) らかな河童の背中にやっと指先がさわったと思う と、 たちまち深い暗(やみ) の中へまっさかさまに転げ落ちました。 が、 我々人间の心はこう いう危机一髪の际にも途方(とほう)もないことを考えるものです。 仆は「あっ」 と思う 拍子にあの上高地(かみこうち) の温泉宿のそばに「河童桥(かっぱばし)」 という 桥があるのを思い出しました。 それから、――それから先のことは覚えていません。 仆はただ目 の前に稲妻(いなずま) に似たものを感じたぎり 、 いつの间(ま) にか正気(しょ う き) を失っていました。 二 そのう ちにやっと気がついてみると、 仆は仰向(あおむ) けに倒れたまま、 大势の河童にとり 囲まれていました。 のみならず太い嘴(く ちばし) の上に鼻目金(はなめがね) をかけた河童が一匹、 仆のそばへひざまずきながら、 仆の胸へ聴诊器を当てていました。 その河童は仆が目をあいたのを见ると、 仆に「静かに」 という 手真似(てまね) をし、 それからだれか后ろにいる河童へ Quax, quax と声をかけました。 するとどこからか河童が二匹、 担架(たんか) を持って歩いてきました。 仆はこの担架にのせられたまま、 大势の河童の群がった中を静かに何町か进んでゆきました。仆の両侧に并んでいる町は少しも银座通り と违いあり ません。 やはり 毛生欅(ぶな) の并み木のかげにいろいろの店が日除(ひよ) けを并べ、 そのまた并み木にはさまれた道を自动车が何台も走っているのです。 やがて仆を载せた担架は细い横町(よこちょ う ) を曲ったと思う と、 ある家(う ち) の中へかつぎこまれました。 それは后(のち) に知ったところによれば、 あの鼻目 金をかけた河童の家、 ――チャックという 医者の家だったのです。 チャックは仆を小ぎれいなベッドの上へ寝かせました。 それから何か透明な水薬(みずぐすり ) を一杯饮ませました。 仆はベッドの上に横たわったなり 、 チャックのするままになっていました。 実际また仆の体(からだ) はろく に身动きもできないほど、 节々(ふしぶし) が痛んでいたのですから。 チャックは一日に二三度は必ず仆を诊察にきました。また三日に一度ぐらいは仆の最初に见かけた河童、 ――バッグという 渔夫(り ょ うし) も寻ねてきました。 河童は我々人间が河童のことを知っているより もはるかに人间のことを知っています。それは我々人间が河童を捕获することより もずっと河童が人间を捕获することが多いためでしょ う 。捕获という のは当たらないまでも、 我々人间は仆の前にもたびたび河童の国へ来ているのです。のみならず一生河童の国に住んでいたものも多かったのです。なぜと言ってごらんなさい。仆らはただ河童(かっぱ) ではない、 人间であるという 特権のために働かずに食っていられるのです。 现にバッグの话によれば、 ある若い道路工夫(こう ふ) などはやはり 偶然この国へ来た后(のち)、 雌(めす) の河童を妻にめとり 、 死ぬまで住んでいたという ことです。 もっともそのまた雌の河童はこの国第一の美人だった上、 夫の道路工夫をごまかすのにも妙をきわめていたという ことです。 仆は一周间ばかり たった后、 この国の法律の定めるところにより 、「特别保护住民」 としてチャックの隣に住むことになり ました。 仆の家 (う ち) は小さい割にいかにも潇洒 (しょ う しゃ) とできあがっていました。 もちろんこの国の文明は我々人间の国の文明――少なく とも日本の文明などとあまり 大差はあり ません。 往来に面した客间の隅(すみ) には小さいピアノ が一台あり 、 それからまた壁には额縁(がく ぶち) へ入れたエッティ ングなども悬(かか) っていました。 ただ肝肾(かんじん) の家をはじめ、 テエブルや椅子(いす) の寸法も河童の身长に合わせてあり ますから、 子どもの部屋(へや) に入れられたよう にそれだけは不便に思いました。 仆はいつも日暮れがたになると、 この部屋にチャックやバッグを迎え、 河童の言叶を习いました。 いや、 彼らばかり ではあり ません。 特别保护住民だった仆にだれも皆好奇心を持っていましたから、 毎日血圧を调べてもらいに、 わざわざチャックを呼び寄せるゲエルという 硝子(ガラス) 会社の社长などもやはり この部屋へ颜を出したものです。 しかし最初の半月 ほどの间に一番仆と亲しく したのはやはり あのバッグという 渔夫(り ょ う し) だったのです。 ある生暖(なまあたた) かい日の暮れです。 仆はこの部屋のテエブルを中に渔夫のバッグと向かい合っていました。 するとバッグはどう 思ったか、 急に黙ってしまった上、 大きい目 をいっそう 大きく してじっと仆を见つめました。 仆はもちろん妙に思いましたから、「Quax, Bag, quo quel , quan?」 と言いました。 これは日本语に翻訳すれば、「おい、 バッグ、 どう したんだ」 という ことです。 が、 バッグは返事をしません。 のみならずいきなり 立ち上がると、 べろり と舌を出したなり 、 ちょ う ど蛙(かえる) の跳(は) ねるよう に飞びかかる気色(けしき) さえ示しました。 仆はいよいよ无気味になり 、 そっと椅子(いす) から立ち上がると、 一足(いっそく ) 飞びに戸口へ飞び出そう としました。 ちょ う どそこへ颜を出したのは幸いにも医者のチャックです。 「こら、 バッグ、 何をしているのだ? 」 チャックは鼻目 金(はなめがね) をかけたまま、 こう いう バッグ〔#「バッグ」 は底本では「バック」〕 をにらみつけました。 するとバッグは恐れいったとみえ、 何度も头へ手をやり ながら、 こう言ってチャックにあやまるのです。 「どうもまことに相(あい) すみません。 実はこの旦那(だんな) の気味悪がるのがおもしろかったものですから、 つい调子に乗って悪戯(いたずら) をしたのです。 どう か旦那も堪忍(かんにん) してく ださい。」 三 仆はこの先を话す前にちょ っと河童という ものを说明しておかなければなり ません。河童はいまだに実在するかどう かも疑问になっている动物です。 が、 それは仆自身が彼らの间に住んでいた以上、 少しも疑う余地はないはずです。ではまたどう いう 动物かと言えば、头に短い毛のあるのはもちろん、 手足に水掻(みずか) きのついていることも「水虎考略(すいここう り ゃく )」 などに出ているのと著しい违いはあり ません。 身长もざっと一メエトルを越えるか越えぬく らいでしょ う。 体重は医者のチャックによれば、 二十ポンドから三十ポンドまで、 ――まれには五十何ポンドぐらいの大河童(おおかっぱ) もいると言っていました。 それから头のまん中には楕円形(だえんけい) の皿(さら) があり 、 そのまた皿は年齢により 、 だんだん固(かた) さを加えるよう です。 现に年をとったバッグの皿は若いチャックの皿などとは全然手ざわり も违う のです。しかし一番不思议なのは河童の皮肤の色のことでしょ う 。 河童は我々人间のよう に一定の皮肤の色を持っていません。なんでもその周囲の色と同じ色に変わってしまう 、 ――たとえば草の中にいる时には草のよう に绿色に変わり 、 岩の上にいる时には岩のよう に灰色に変わるのです。 これはもちろん河童に限らず、 カメ レオンにもあることです。 あるいは河童は皮肤组织の上に何かカメレオンに近いところを持っているのかもしれません。仆はこの事実を発见した时、 西国 (さいこく ) の河童は绿色であり 、 东北(とう ほく ) の河童は赤いという 民俗学上の记录を思い出しました。 のみならずバッグを追いかける时、 突然どこへ行ったのか、 见えなく なったことを思い出しました。 しかも河童は皮肤の下によほど厚い脂肪を持っているとみえ、この地下の国の温度は比较的低いのにもかかわらず、 (平均华氏(かっし) 五十度前后です。) 着物という ものを知らず〔#「知らず」 は底本では「知らす」〕 にいるのです。 もちろんどの河童も目 金(めがね) をかけたり 、 巻烟草(まきたばこ) の箱を携えたり 、 金入(かねい) れを持ったり はしているでしょ う 。 しかし河童はカンガルウのよう に腹に袋を持っていますから、 それらのものをしまう 时にも格别不便はしないのです。 ただ仆におかしかったのは腰のまわり さえおおわないことです。仆はある时この习惯をなぜかとバッグに寻ねてみました。 すると〔#「すると」 は底本では「ずると」〕 バッグはのけぞったまま、 いつまでもげらげら笑っていました。 おまけに「わたしはお前さんの隠しているのがおかしい」 と返事をしました。 四 仆はだんだん河童の使う 日常の言叶を覚えてきました。従って河童の风俗や习惯ものみこめるよう になってきました。その中でも一番不思议だったのは河童は我々人间の真面目(まじめ) に思う ことをおかしがる、 同时に我々人间のおかしがることを真面目に思う ――こういう とんちんかんな习惯です。たとえば我々人间は正义とか人道とかいう ことを真面目 に思う 、 しかし河童はそんなことを闻く と、 腹をかかえて笑い出すのです。 つまり 彼らの滑稽(こっけい) という 観念は我々の滑稽という 観念と全然标准を异(こと) にしているのでしょ う 。 仆はある时医者のチャックと产児制限の话をしていました。 するとチャックは大口をあいて、 鼻目 金(はなめがね) の落ちるほど笑い出しました。 仆はもちろん腹が立ちましたから、 何がおかしいかと诘问しました。 なんでもチャックの返答はだいたいこうだったよう に覚えています。 もっとも多少细かいところは间违(まちが) っているかもしれません。なにしろまだそのころは仆も河童の使う 言叶をすっかり 理解していなかったのですから。 「しかし両亲のつごう ばかり 考えているのはおかしいですからね。どう もあまり 手前胜手ですからね。」 その代わり に我々人间から见れば、 実际また河童(かっぱ) のお产ぐらい、 おかしいものはあり ません。 现に仆はしばらく たってから、 バッグの细君のお产をするところをバッグの小屋へ见物にゆきました。 河童もお产をする时には我々人间と同じことです。 やはり医者や产婆(さんば) などの助けを借り てお产をするのです。 けれどもお产をするとなると、 父亲は电话でもかけるよう に母亲の生殖器に口をつけ、 「お前はこの世界へ生まれてく るかどう か、 よく 考えた上で返事をしろ。」 と大きな声で寻ねるのです。 バッグもやはり 膝(ひざ) をつきながら、 何度も缲り 返してこう 言いました。 それからテエブルの上にあった消毒用の水薬(すいやく ) でう がいをしました。 すると细君の腹の中の子は多少気兼ねでもしているとみえ、 こう 小声に返事をしました。 「仆は生まれたく はあり ません。 第一仆のお父(とう ) さんの遗伝は精神病だけでもたいへんです。 その上仆は河童的存在を悪いと信じていますから。」 バッグはこの返事を闻いた时、 てれたように头をかいていました。 が、 そこにい合わせた产婆はたちまち细君の生殖器へ太い硝子(ガラス) の管(かん) を突きこみ、 何か液体を注射しました。 すると细君はほっとしたよう に太い息をもらしました。 同时にまた今まで大きかった腹は水素瓦斯(すいそガス) を抜いた风船のようにへたへたと缩んでしまいました。 こういう 返事をするく らいですから、 河童の子どもは生まれるが早いか、 もちろん歩いたり しゃべったり するのです。 なんでもチャックの话では出产后二十六日目 に神の有无(う む) について讲演をした子どももあったとかいう ことです。 もっともその子どもは二月 目 (ふたつきめ) には死んでしまったという ことですが。 お产の话をしたついでですから、 仆がこの国へ来た三月目(みつきめ) に偶然ある街 (まち) の角(かど) で见かけた、 大きいポスタアの话をしましょ う 。 その大きいポスタ アの下には喇叭(らっぱ) を吹いている河童だの剣を持っている河童だのが十二三匹描(か)いてあり ました。 それからまた上には河童の使う 、 ちょ う ど时计(とけい) のゼンマイに似た螺旋(らせん) 文字が一面に并べてあり ました。 この螺旋文字を翻訳すると、 だいたいこう いう 意味になるのです。 これもあるいは细かいところは间违(まちが) っているかもしれません。 が、 とにかく 仆としては仆といっしょ に歩いていた、 ラップという 河童の学生が大声に読み上げてく れる言叶をいちいちノ オトにとっておいたのです。 遗伝的义勇队を募(つの) る※〔#感叹符三つ、 63 8〕 健全なる男女の河童よ※〔#感叹符三つ、 63 9〕 悪遗伝を扑灭(ぼく めつ) するために 不健全なる男女の河童と结婚せよ※〔#感叹符三つ、 63 11〕 仆はもちろんその时にもそんなことの行なわれないこと をラップに话して闻かせました。 するとラップばかり ではない、 ポスタ アの近所にいた河童はことごとく げらげら笑い出しました。 「行なわれない? だってあなたの话ではあなたがたもやはり 我々のよう に行なっていると思いますがね。 あなたは令息が女中に惚(ほ) れたり 、 令嬢が运転手に惚れたり するのはなんのためだと 思っているのです? あれは皆无意识的に悪遗伝を扑灭しているのですよ。 第一この间あなたの话したあなたがた人间の义勇队より も、 ――一本の鉄道を夺う ために互いに杀し合う 义勇队ですね、 ――ああいう 义勇队に比べれば、 ずっと仆たちの 义勇队は高尚ではないかと思いますがね。」 ラップは真面目(まじめ) にこう 言いながら、 しかも太い腹だけはおかしそう に绝えず浪立(なみだ) たせていました。 が、 仆は笑うどころか、 あわててある河童(かっぱ) をつかまえよう としました。 それは仆の油断を见すまし、 その河童が仆の万年笔を盗んだことに気がついたからです。 しかし皮肤の滑(なめ) らかな河童は容易に我々にはつかまりません。 その河童もぬらり とすべり 抜けるが早いかいっさんに逃げ出してしまいました。ちょ うど蚊のよう にやせた体(からだ) を倒れるかと思う く らいのめらせながら。 五 仆はこのラップという 河童にバッグにも劣らぬ世话になり ました。 が、 その中でも忘れられないのはトックという 河童に绍介されたことです。 トックは河童仲间の诗人です。 诗人が髪を长く していることは我々人间と変わり ません。 仆は时々トックの家(う ち) へ退屈しのぎに游びにゆきました。 トックはいつも狭い部屋(へや) に高山植物の钵植(はちう ) えを并べ、 诗を书いたり 烟草(たばこ) をのんだり 、 いかにも気楽そう に暮らしていました。 そのまた部屋の隅(すみ) には雌(めす) の河童が一匹、 (トックは自由恋爱家ですから、 细君という ものは持たないのです。) 编み物か何かしていました。 トックは仆の颜を见ると、 いつも微笑してこう 言う のです。(もっとも河童の微笑するのはあまり いいものではあり ません。 少なく とも仆は最初のう ちはむしろ无気味に感じたものです。) 「やあ、 よく 来たね。 まあ、 その椅子(いす) にかけたまえ。」 トックはよく 河童の生活だの河童の芸术だのの话をしました。トックの信ずるところによれば、 当たり 前の河童の生活ぐらい、 莫迦(ばか) げているものはあり ません。 亲子夫妇兄弟などという のはことごとく 互いに苦しめ合う ことを唯一の楽しみにして暮らしているのです。 ことに家族制度という ものは莫迦げている以上にも莫迦げているのです。 トックはある时窓の外を指さし、 「见たまえ。 あの莫迦げさ加减を! 」 と吐き出すよう に言いました。 窓の外の往来にはまだ年の若い河童が一匹、 両亲らしい河童をはじめ、 七八匹の雌雄(めすおす) の河童を颈(く び) のまわり へぶら下げながら、 息も绝え绝えに歩いていました。 しかし仆は年の若い河童の犠牲的精神に感心しましたから、 かえってその健気(けなげ) さをほめ立てました。 「ふん、 君はこの国でも市民になる资格を持っている。 ……时に君は社会主义者かね? 」 仆はもちろん qua(これは河童の使う 言叶では「然(しか) り 」 という 意味を现わすのです。) と答えました。 「では百人の凡人のために甘んじてひとり の天才を犠牲にすることも顾みないはずだ。」 「では君は何主义者だ? だれかトック君の信条は无政府主义だと言っていたが、 ……」 「仆か? 仆は超人(直訳すれば超河童です。) だ。」 トックは昂然(こう ぜん) と言い放ちました。 こう いう トックは芸术の上にも独特な考えを持っています。 トックの信ずるところによれば、 芸术は何ものの支配をも受けない、芸术のための芸术である、 従って芸术家たるものは何より も先に善悪を绝(ぜっ) した超人でなければならぬという のです。もっともこれは必ずしもトック一匹の意见ではあり ません。 トックの仲间の诗人たちはたいてい同意见を持っているよう です。 现に仆はトックといっしょ にたびたび超人倶楽部(クラブ) へ游びにゆきました。 超人倶楽部に集まってく るのは诗人、 小说家、 戯曲家、 批评家、 画家、 音楽家、 雕刻家、 芸术上の素人(しろうと) 等です。 しかしいずれも超人です。 彼らは电灯の明るいサロンにいつも快活に话し合っていました。 のみならず时には得々(とく とく ) と彼らの超人ぶり を示し合っていました。 たとえばある雕刻家などは大きい鬼羊歯(おにしだ) の钵植(はちう ) えの间に年の若い河童(かっぱ) をつかまえながら、 しきり に男色(だんしょ く ) をもてあそんでいま した。 またある雌(めす) の小说家などはテエブルの上に立ち上がったなり 、 アブサントを六十本饮んで见せました。 もっともこれは六十本目 にテエブルの下へ転(ころ) げ落ちるが早いか、 たちまち往生してしまいましたが。 仆はある月 のいい晩、 诗人のトックと肘(ひじ) を组んだまま、 超人倶楽部から帰ってきました。 トックはいつになく 沈みこんでひとことも口をきかずにいました。 そのう ちに仆らは火(ほ) かげのさした、 小さい窓の前を通り かかり ました。 そのまた窓の向こう には夫妇らしい雌雄(めすおす) の河童が二匹、 三匹の子どもの河童といっしょ に晩餐(ばんさん) のテエブルに向かっているのです。 するとトックはため息をしながら、 突然こう仆に话しかけました。 「仆は超人的恋爱家だと思っているがね、 ああいう 家庭の容子(よう す) を见ると、 やはり う らやましさを感じるんだよ。」 「しかしそれはどう考えても、 矛盾しているとは思わないかね? 」 けれどもトックは月 明り の下にじっと腕を组んだまま、 あの小さい窓の向こう を、 ――平和な五匹の河童たちの晩餐のテエブルを见守っていました。それからしばらく してこう答えました。 「あすこにある玉子焼きはなんと言っても、 恋爱などより も卫生的だからね。」 六 実际また河童の恋爱は我々人间の恋爱とはよほど趣を异(こと) にしています。 雌の河童はこれぞという 雄の河童を见つけるが早いか、 雄の河童をとらえるのにいかなる手段も顾みません、 一番正直な雌の河童は遮二无二 (しゃにむに) 雄の河童を追いかけるのです。现に仆は気违いのよう に雄の河童を追いかけている雌の河童を见かけました。 いや、 そればかり ではあり ません。 若い雌の河童はもちろん、 その河童の両亲や兄弟までいっしょ になって追いかけるのです。 雄の河童こそみじめです。 なにしろさんざん逃げまわったあげく 、 运よく つかまらずにすんだとしても、 二三か月 は床(とこ) についてしまう のですから。 仆はある时仆の家にトックの诗集を読んでいました。 するとそこへ駆けこんできたのはあのラップという学生です。 ラップは仆の家へ転げこむと、 床(ゆか) の上へ倒れたなり 、 息も切れ切れにこう 言う のです。 「大変(たいへん) だ! とう とう 仆は抱きつかれてしまった! 」 仆はとっさに诗集を投げ出し、 戸口の锭(じょ う ) をおろしてしまいました。 しかし键穴(かぎあな) からのぞいてみると、 硫黄(いおう ) の粉末を颜に涂った、 背(せい) の低い雌(めす) の河童(かっぱ) が一匹、 まだ戸口にうろついているのです。 ラップはその日から何周间か仆の床(とこ) の上に寝ていました。 のみならずいつかラップの嘴(くちばし) はすっかり 腐って落ちてしまいました。 もっともまた时には雌の河童を一生悬命 (いっしょ う けんめい) に追いかける雄 (おす)の河童もないではあり ません。しかしそれもほんとう のところは追いかけずにはいられないよう に雌の河童が仕向けるのです。仆はやはり 気违いのように雌の河童を追いかけている雄の河童も见かけました。 雌の河童は逃げてゆく う ちにも、 时々わざと立ち止まってみたり 、 四(よ) つん这(ば) いになったり して见せるのです。 おまけにちょ う どいい时分になると、 さもがっかり したよう に楽々とつかませてしまう のです。 仆の见かけた雄の河童は雌の河童を抱いたなり 、 しばらく そこに転(ころ) がっていました。 が、 やっと起き上がったのを见ると、 失望という か、 后悔というか、 とにかく なんとも形容できない、 気の毒な颜をしていました。 しかしそれはまだいいのです。 これも仆の见かけた中に小さい雄の河童が一匹、 雌の河童を追いかけていました。 雌の河童は例のとおり 、 诱惑的遁走 (とんそう ) をしているのです。 するとそこへ向こう の街 (まち) から大きい雄の河童が一匹、 鼻息を鸣らせて歩いてきました。 雌の河童はなにかの拍子にふとこの雄の河童を见ると「大変(たいへん) です! 助けてく ださい! あの河童はわたしを杀そう と するのです! 」 と金切(かなき) り 声を出して叫びました。 もちろん大きい雄の河童はたちまち小さい河童をつかまえ、 往来のまん中へねじ伏せました。 小さい河童は水掻(みずか) きのある手に二三度空(く う) をつかんだなり 、 とう とう 死んでしまいました。 けれどももうその时には雌の河童はにやにやしながら、 大きい河童の颈(く び) っ玉へしっかり しがみついてしまっていたのです。 仆の知っていた雄(おす) の河童(かっぱ) はだれも皆言い合わせたよう に雌(めす)の河童に追いかけられました。もちろん妻子を持っているバッグでもやはり 追いかけられたのです。 のみならず二三度はつかまったのです。 ただマッグという 哲学者だけは(これはあのトックという 诗人の隣にいる河童です。) 一度もつかまったことはあり ません。 これは一つにはマッグぐらい、 丑い河童も少ないためでしょ う 。 しかしまた一つにはマッグだけはあまり 往来へ颜を出さずに家(う ち) にばかり いるためです。 仆はこのマッグの家へも时々话しに出かけました。 マッグはいつも薄暗(う すぐら) い部屋(へや) に七色(なないろ) の色硝子(いろガラス) のランタ アンをともし、 脚(あし) の高い机に向かいながら、 厚い本ばかり 読んでいるのです。 仆はある时こう いうマッグと河童の恋爱を论じ合いました。 「なぜ政府は雌の河童が雄の河童を追いかけるのをも っと 厳重に取り 缔まらないのです? 」 「それは一つには官吏の中に雌の河童の少ないためですよ。雌の河童は雄の河童より もいっそう嫉妬心(しっとしん) は强いものですからね、 雌の河童の官吏さえ殖 (ふ) えれば、きっと今より も雄の河童は追いかけられずに暮らせるでしょ う 。しかしその効力もしれたものですね。 なぜと言ってごらんなさい。 官吏同志でも雌の河童は雄の河童を追いかけますからね。」 「じゃあなたのように暮らしているのは一番幸福なわけですね。」 するとマッグは椅子(いす) を离れ、 仆の両手を握ったまま、 ため息といっしょ にこう言いました。 「あなたは我々河童ではあり ませんから、 おわかり にならないのももっともです。 しかしわたしもどう かすると、 あの恐ろしい雌の河童に追いかけられたい気も起こるのですよ。」 七 仆はまた诗人のトックとたびたび音楽会へも出かけました。 が、 いまだに忘れられないのは三度目に聴(き) きにいった音楽会のことです。 もっとも会场の容子(ようす) などはあまり 日本と変わっていません。やはり だんだんせり 上がった席に雌雄の河童が三四百匹、 いずれもプログラムを手にしながら、 一心に耳を澄ませているのです。 仆はこの三度目 の音楽会の时にはト ックやト ックの雌の河童のほかにも哲学者のマッグといっしょ になり 、 一番前の席にすわっていました。 するとセロの独奏が终わった后(のち)、 妙に目の细い河童が一匹、 无造作(むぞう さ) に谱本を抱(かか) えたまま、 坛の上へ上がってきました。 この河童はプログラムの教えるとおり 、 名高いクラバックという 作曲家です。プログラムの教えるとおり 、 ――いや、 プログラムを见るまでもあり ません。 クラバックはトックが属している超人倶楽部(クラブ) の会员ですから、 仆もまた颜だけは知っているのです。 「Li ed――Craback」(この国のプログラムもたいていは独逸(ドイツ) 语を并べていました。) クラバックは盛んな拍手のう ちにちょ っと我々へ一礼した后、 静かにピアノ の前へ歩み 寄り ました。 それからやはり 无造作に自作のリ イドを弾(ひ) きはじめました。 クラバックはトックの言叶によれば、 この国の生んだ音楽家中、 前后に比类のない天才だそう です。仆はクラバックの音楽はもちろん、 そのまた余技の抒情(じょ じょ う ) 诗にも兴味を持っていましたから、 大きい弓なり のピアノ の音に热心に耳を倾けていました。 トックやマッグも恍惚(こう こつ) としていたことはあるいは仆より もまさっていたでしょ う 。 が、 あの美しい(少なく とも河童(かっぱ) たちの话によれば) 雌(めす) の河童だけはしっかり プログラムを握ったなり 、 时々さもいらだたしそう に长い舌をべろべろ出していました。これはマッグの话によれば、 なんでもかれこれ十年前(ぜん) にクラバックをつかまえそこなったものですから、 いまだにこの音楽家を目の敌(かたき) にしているのだとかいうことです。 クラバックは全身に情热をこめ、 戦う ようにピアノ を弾(ひ) きつづけました。 すると突然会场の中に神鸣り のよう に响き渡ったのは「演奏禁止」 という 声です。 仆はこの声にびっく り し、 思わず后ろをふり 返り ました。 声の主は纷れもない、 一番后ろの席にいる身(み) の丈(たけ) 抜群の巡査です、 巡査は仆がふり 向いた时、 悠然(ゆう ぜん) と腰をおろしたまま、 もう 一度前より もおお声に「演奏禁止」 と怒鸣(どな) り ました。 それから、 ―― それから先は大混乱です。 「警官横暴! 」 「クラバック、 弾け! 弾け! 」 「莫迦 (ばか) ! 」「畜生! 」「ひっこめ! 」「负けるな! 」 ――こう いう 声のわき上がった中に椅子(いす)は倒れる、 プログラムは飞ぶ、 おまけにだれが投げるのか、 サイダアの空坛(あきびん)や石ころやかじり かけの胡瓜(きゅう り ) さえ降ってく るのです。 仆は呆(あ) っ気(け)にとられましたから、 トックにその理由を寻ねよう としました。 が、 トックも兴奋したとみえ、 椅子の上に突っ立ちながら、 「クラバック、 弾け! 弾け! 」 とわめきつづけています。 のみならずトックの雌の河童もいつの间(ま) に敌意を忘れたのか、「警官横暴」と叫んでいることは少しもトックに変わり ません。 仆はやむを得ずマッグに向かい、 「どう したのです? 」 と寻ねてみました。 「これですか? これはこの国ではよく あることですよ。 元来画(え) だの文芸だのは……」 マッグは何か飞んでく るたびにちょ っと颈(く び) を缩めながら、 相変わらず静かに说明しました。 「元来画だの文芸だのはだれの目 にも何を表わしているかはとにかく ちゃんと わかるはずですから、 この国では决して発売禁止や展覧禁止は行なわれません。 その代わり にあるのが演奏禁止です。 なにしろ音楽という ものだけはどんなに风俗を壊乱する曲でも、 耳のない河童にはわかり ませんからね。」 「しかしあの巡査は耳があるのですか? 」 「さあ、 それは疑问ですね。 たぶん今の旋律を闻いているう ちに细君といっしょ に寝ている时の心臓の鼓动でも思い出したのでしょ う 。」 こう いう 间にも大騒ぎはいよいよ盛んになるばかり です。クラバックはピアノ に向かったまま、 傲然(ごう ぜん) と我々をふり 返っていました。 が、 いく ら傲然としていても、いろいろのものの飞んでく るのはよけないわけにゆきません。従ってつまり 二三秒置きにせっかく の态度も変わったわけです。しかしとにかく だいたいとしては大音楽家の威厳を保ちながら、 细い目をすさまじく かがやかせていました。 仆は――仆ももちろん危険を避けるためにトックを小楯(こだて) にとっていたものです。 が、 やはり 好奇心に駆られ、热心にマッグと话しつづけました。 「そんな検阅は乱暴じゃあり ませんか? 」 「なに、 どの国の検阅より もかえって进歩しているく らいですよ。 たとえば× × をごらんなさい。 现につい一月 (ひとつき) ばかり 前にも、 ……」 ちょ う どこう 言いかけたとたんです。マッグはあいにく 脳天に空坛が落ちたものですから、 quack(これはただ间投词(かんとう し) です) と一声叫んだぎり 、 とう とう 気を失ってしまいました。 八 仆は硝子(ガラス) 会社の社长のゲエルに不思议にも好意を持っていました。 ゲエルは资本家中の资本家です。 おそらく はこの国の河童(かっぱ) の中でも、 ゲエルほど大きい腹をした河童は一匹もいなかったのに违いあり ません。 しかし茘枝(れいし) に似た细君や胡瓜(きゅうり ) に似た子どもを左右にしながら、 安楽椅子(いす) にすわっているところはほとんど幸福そのものです。仆は时々裁判官のペップや医者のチャックにつれられてゲエル家(け) の晩餐(ばんさん) へ出かけました。 またゲエルの绍介状を持ってゲエルやゲエルの友人たちが多少の関系を持っているいろいろの工场も见て歩きました。そのいろいろの工场の中でもことに仆におもしろかったのは书籍制造会社の工场です。仆は年の若い河童の技师とこの工场の中へはいり 、 水力电気を动力にした、 大きい机械をながめた时、 今さらのよう に河童の国の机械工业の进歩に惊叹しました。 なんでもそこでは一年间に七百万部の本を制造するそう です。 が、 仆を惊かしたのは本の部数ではあり ません。それだけの本を制造するのに少しも手数のかからないことです。なにしろこの国では本を造るのにただ机械の漏斗形(じょ う ごがた) の口へ纸とインクと灰色をした粉末とを入れるだけなのですから。 それらの原料は机械の中へはいると、 ほとんど五分とたたないう ちに菊版(きく ばん)、 四六版(しろく ばん)、 菊半裁版(きく はんさいばん) などの无数の本になって出てく るのです。 仆は瀑(たき) のよう に流れ落ちるいろいろの本をながめながら、 反(そ) り 身になった河童の技师にその灰色の粉末はなんと言う ものかと寻ねてみました。 すると技师は黒光り に光った机械の前にたたずんだまま、 つまらなそう にこう 返事をしました。 「これですか? これは驴马(ろば) の脳髄ですよ。 ええ、 一度乾燥させてから、 ざっと粉末にしただけのものです。 时価は一吨(とん) 二三銭ですがね。」 もちろんこう いう 工业上の奇迹は书籍制造会社にばかり 起こっているわけではあり ません。 絵画制造会社にも、 音楽制造会社にも、 同じように起こっているのです。 実际またゲエルの话によれば、 この国では平均一か月 に七八百种の机械が新案され、 なんでもずんずん人手を待たずに大量生产が行なわれるそう です。 従ってまた职工の解雇(かいこ) されるのも四五万匹を下らないそう です。そのく せまだこの国では毎朝を読んでいても、一度も罢业(ひぎょ う ) という字に出会いません。 仆はこれを妙に思いましたから、 ある时またペップやチャックとゲエル家の晩餐に招かれた机会にこのことをなぜかと寻ねてみました。 「それはみんな食ってしまう のですよ。」 食后の叶巻をく わえたゲエルはいかにも无造作(むぞう さ) にこう 言いました。 しかし「食ってしまう 」 という のはなんのことだかわかり ません。 すると鼻目 金(はなめがね)をかけたチャックは仆の不审を察したとみえ、 横あいから说明を加えてく れました。 「その职工をみんな杀してしまって、 肉を食料に使う のです。 ここにあるをごらんなさい。 今月はちょ う ど六万四千七百六十九匹の职工が解雇(かいこ) されましたから、 それだけ肉の値段も下がったわけですよ。」 「职工は黙って杀されるのですか? 」 「それは騒いでもしかたはあり ません。 职工屠杀法(しょ っこう とさつほう ) があるので すから。」 これは山桃(やまもも) の钵植(はちう ) えを后ろに苦い颜をしていたペップの言叶です。 仆はもちろん不快を感じました。 しかし主人公のゲエルはもちろん、 ペップやチャックもそんなことは当然と思っているらしいのです。 现にチャックは笑いながら、 あざけるよう に仆に话しかけました。 「つまり 饿死(がし) したり 自杀したり する手数を国家的に省略してやるのですね。 ちょっと有毒瓦斯(ガス) をかがせるだけですから、 たいした苦痛はあり ませんよ。」 「けれどもその肉を食う という のは、 ……」 「常谈(じょ う だん) を言ってはいけません。 あのマッグに闻かせたら、 さぞ大笑いに笑う でしょ う 。あなたの国でも第四阶级の娘たちは売笑妇になっているではあり ませんか? 职工の肉を食う ことなどに愤慨したり するのは感伤主义ですよ。」 こう いう 问答を闻いていたゲエルは手近いテエブルの上にあったサンドウィ ッチの皿を勧めながら、 恬然(てんぜん) と仆にこう 言いました。 「どうです? 一つとり ませんか? これも职工の肉ですがね。」 仆はもちろん辟易(へきえき) しました。 いや、 そればかり ではあり ません。 ペップやチャックの笑い声を后ろにゲエル家(け) の客间を飞び出しました。 それはちょ う ど家々の空に星明かり も见えない荒れ模様の夜です。 仆はその暗(やみ) の中を仆の住居(すまい) へ帰り ながら、 のべつ幕なしに呕吐(へど) を吐きました。 夜目にも白(しら) じらと流れる呕吐を。 九 しかし硝子(ガラス) 会社の社长のゲエルは人なつこい河童(かっぱ) だっ...

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